それがら、何年も何年もたって。
ある日、米沢街道、今の国道みでだもんだ。
そごをの、一人の座頭(ざとう)が歩いでいだど。
座頭は、まなごがめね人で、蔵市(くらのいち)という人であったど。
この人は、蒲原(かんばら)の方の赤塚(あかつか)で生まれだ人で、検校(けんぎょう)の位を受げだので、ふるさとへ帰る途中であったど。
秋が近い夏の夜だったので、風もひんやりとしでいで、とっても気もぢのいい日であったど。
大里峠で夜になってしもだので、祠(ほこら)の前の石に腰かげで、琵琶(びわ)をひぎはじめだど。
みでだもんだ→みたいなもので まなご→目 めね→見えない
琵琶をひぎながら、うっとりしていだら、
「法師様(ほうしさま)、法師様、もう1曲聞かせでくださえんし。」
ま夜中に、女ごの声がしたど。
声だけで、とってもきれいな人だなぁーと思だど。
そして、たのまれるままに、まだ、ひぎはじめだどさ。
それから何時(なんどき)がたって、語り終わってがら、女ごの人に身のうえを聞えでみだら・・・
くださえんし→くださいませ
「法師様、おどろがれるがもしれねどもねんし。実は、おれは人間ではないんでござんす。」
「前には、おっとも、娘もあったんだどもねんし。いろいろわげがあって、大蛇になってしもだんです。」
「いま、こんだに体がおっきょなったら住むどごがせもなってしもだので、近ぐ貝附(かいづけ)のせばとをせきとめ、荒川や女川一帯を大きな湖にして、住家にしょうど思でいやんす。」
「このこどは、だれにも言わのでくたえんし。もし言うだどぎは、法師様の命はねえものど思でくたせんし。一時も早よう、安全な場所へ移った方がようござんす。」
そう言うと、その女ごの人は生ぐさえ風と一緒ょに、どっかへ行ってしもだど。
ござんす→ございます おっきょ→大きく せばと→せまいところ
いやんす→います くたえんし・くたせんし→くださいませ
座頭は、
琵琶と杖(つえ)だげが残ったんさぁ。
もは→もはや
あだり→あたり
村のしょは、その騒いだ7日7晩、ひとねむりもしんねで、どうなるのだが心配していだど。
今でも、下関の大蔵様には、この琵琶を、神宝どしてまづられでいるがねぇ。
みんなせで→みんなで
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